Shochikucho House
通り庭のある家
都市内の歴史地区の只中に計画された、若い家族のための住宅である。敷地は東西方向に細長い長方形の形状をしており、西側の短辺を
5.5m幅で接道し、奥行き25mほどの深さがある。かつてこの土地に、京都の伝統的な形式による町家が建っていたと想像させられる土地であった。
そのようなことから、町家を意識した住宅を考え始めた。まず、ファサードがそのまま道路空間の一部となるように、道路からのセットバックなしに、建築のヴォリュームを立ち上げることにした。平面の大きさは許容建坪率いっぱいに近く、最奥に小さな坪庭がある以外は、ほとんど敷地形状を立ち上げたかのような直方体である。構造としては、やじろべえ的T型構造体を中央に5列配置して、建物全体を支えることとした。室内の中央部に大きな構造体が並ぶことで、細長い建物の空間を南と北のさらに細長いふたつの空間に分けることになった。このふたつの空間のうち、南側の細長い空間のほうを通り庭とし、北側のそれを居室とした。南の通り庭のほうは、前面道路から奥の坪庭までまっすぐ通り抜けられる土間空間である。ここは光と風、外気を多く取り入れた半屋外的な雰囲気の空間で、台所があり、また植物を並べて水やりをしたり、自転車や自動車を停めたりと、通りの延長のような、人の出入りの多い空間である。北側の居室空間のほうは逆に、床が高く設定された上足空間で、静かで落ち着いた居間空間となる。この南北のふたつの細長空間は、土間と居間、下足空間と上足空間、または庭と部屋、または半屋外と室内、湿った空間と乾いた空間というように、いくつかの対比をもつ。これらの対比が、京都における現代的生活の基本的骨格として有用であることを期待している。
建物の形状については、伝統的京町家のスタイルを意識しつつ屋根を架け平入とする案を検討したが、最終的には平らな屋根の、単純な直方体となった。ひとつは、中間期および夏季における気圧差換気の必要のために、高い天井高を必要としたことがあり、また、木造町家が並んでいた時代の街並みよりも高い、10mクラスの大きなファサードが立ち並ぶ現代的な通りの中で、違和感のないファサードの存在感を求めた結果でもある。フラットルーフの直方体には軒がないが、低層部分に庇を付け、またファサード全体を彫りの深い水平ルーバーとして、10mの高さをもつ立面に分節と深みを与えようと試みている。この水平ルーバーは、内外を柔らかく繋げる効果をもち、通りと通り庭の連続性を示唆する装置でもある。これによって、室内の光や雰囲気が柔らかく醸し出され、通りの情景に暮らしの気配が加わることを期待した。(西沢立衛)